エミコの統計学

私は男性だが、母・エミコと顔が似ている。
目や口元などのパーツだけではなく、表情まで生き写しと言われる。血の繋がりがなくても、夫婦の顔つきは日に日に近づき、ペットでさえも飼い主に似るくらいだ。子宮から生を預かった身である以上、似てしまうのは仕方がない。現に私自身でさえも、若かりし頃にパーマをかけた際、鏡に映る自分があまりにも母親に似ていてひどく狼狽した。そして鏡の向こうでうろたえる姿でさえも、エミコそのもので、翌日には髪型を変えた。

数年前、エミコは東京へふらりとやって来た。病気で入院した私を心配して、わざわざ上京したのだ、と恩着せがましく力説していたが、病室には朝と晩、合計10分ほど顔を出すだけで、基本的には銀座や日本橋を謳歌していた。
「ところでさ、アンタ、マユミちゃんって子、知り合い?」
幾つもの点滴が腕と繋がっていても、エミコには遠慮がない。
「何?突然…。具合が悪いのに…。マユミちゃん?苗字は?」
「知らない。愛嬌のある可愛い子よ。アンタと大学が一緒だったみたい」
「ああ、マユ坊か。それがどうしたの?」
「今日、銀座駅を歩いていたら、いきなり、もしかして風間くんのお母さんですか?って話しかけられたの」

銀座駅は1日12万人以上の人々が行き交う東京きっての繁華街だ。長く東京に住んでいる私でさえ、マユ坊に銀座駅で遭遇したことなどない。それどころか、どんなに混雑をしている日であろうと、知人にさえ出くわさない。それなのにマユ坊は、私の母を見つけ、声まで掛けた。よほどの確信があったのだろう。
その翌日、今度は私が当時働いていたカフェへ出かけると、店員どころか客たちからも「風間くんのお母さんですか?」と次々に話し掛けられたらしい。母が東京に来ているなど、一言も伝えていないのに、この有様なのだから、私が実家に帰ると大変だ。人口の分母が小さい分、母の顔見知りが占める割合も多く、ちょっとスーパーへ出掛けようものなら、知らないジジイやババアから「エミちゃんの子供?」と数分おきに声を掛けられ、その度に私はリアクションに悩む。
まずは名乗れよ!!オメーは誰だよ!!

残念ながらエミコに似たのは、顔や表情だけではなかった。
私もエミコも歌が好きで、適当に作った自作の歌を口ずさむ。詞もメロディもいい加減だから同じ歌は二度と歌えない。さらに私は、サザエさんのオープニングテーマもエンディングテーマも必ずと言って良いほどテレビに合わせてキレイにハモるが、エミコはエミコでCMのメロディに必ずハモる。ライザップのメロディに歌詞を付けているのは、世界でエミコだけだろう。

そして、価値観も少し似ている。
一緒にテレビを観ていて、こういう人苦手だな~と思った矢先に、エミコが文句を言い、泣きそうになるシーンではエミコが先に涙を流す。さらにその多くは、父や弟、弟の奥さんであるアサちゃんにとって、何ともない人であったり、何ともないシーンであることも共通している。

私には、私なりの統計がある。この統計は、ほぼ独断と偏見によって形成され、一般的な統計とは異なる。小さな経験値だけで物事を判断し、あたかもそれが世の総意であると思い込む悪い癖だが、エミコだけは理解を示してくれる。
例えば、私の統計によると「自撮り棒を使って写真を撮っている奴はだいたいバカ」だ。少ない統計だが曲げられない。さらに「一人称をボクと言う女とは関わらない方がいい」との統計もある。
「なんで?」と聞いてくる父や弟、アサちゃんとは、家族であろうと分かり合える気がしない。しかし、エミコだけは「さすがオレの息子だ」と大きく頷く。エミコに至らない点があるとすれば、私の統計上、「一人称をオレと言う女はもっと最悪」だと言うことにまで気が付かない点だ。

世間的には太っている人のことを「穏やかそう」だとか「自己管理ができなさそう」だとか、肯定的なイメージから手厳しいイメージまである。しかし、エミコの統計によると少し違うようだ。全員じゃないのよ、全員じゃないけれど…、と前置きをしながら、きっぱりと言った。
「私の統計によると、だいたいのデブは嘘つき」

餅

これぞ偏見!

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