バスの運転手が変わりました

私が通い詰めている岩盤浴は、無料のバスを利用できる。
幾つかの乗車地が設けられており、運良くマンションから5分くらいの場所もその一つになっている。
時間を見つけては、週2~3回のペースで通っていたけれど、なかなか忙しい日が続き、先日、約1ヶ月ぶりに岩盤浴に行った。

バスを待っていた時点で、異変に気が付いた。
いつもは向かって右側の大通りから来るバス、この日は裏道から登場した。工事でもしていたのだろうか?
「おはようございます」
挨拶をしながらバスに乗った瞬間、「おはようございます」と挨拶が返って来て、ビックリ仰天!
いつもの運転手より10歳は若く見える中年男性が満面の笑みを放っていた。

それまでは70歳は過ぎているであろう無口な運転手だった。
挨拶どころか、降車地を伝えても返事すらしないジジイで、最初こそ「このジジイ…!」と憤っていたが、慣れるとそれがすごくラクに感じ、こちらも気を遣わなくても良いし、何より「飲食禁止」と大きく書かれている車内で、ジュースを飲もうが菓子を食べようが、絶対に注意すらされなかった。
ちなみにこのジジイの時は、車内が静かでエンジン音以外が響くことはなく、乗客さえも口を開かなかった。

新しい運転手は、大音量で昭和歌謡曲を流しながら、時に鼻歌交じりで運転をする。
今までとの様子があまりにも違い過ぎて、なかなかの居心地の悪さだったが、次の乗車地で乗って来た女の子が、何食わぬ様子で雑誌を読み始めたから、この運転手のキャラは既に浸透しているようだ。
私が慣れないといけない。

昭和歌謡曲が決して嫌いではない私は、「あなたな~ら どうする~ あなたな~ら どうする~♪」と流れた瞬間に、心の中で「私ならブライト」と呟いてみたり、「彼の~ 車に乗って~ 真夏の海を走り続けた~ 彼の~ 車に乗って~♪」ここまで来たところで、心の中でピンポン!!と言いながら、目には見えないボタンを押して「さいはての街 私は着いた~」と続きを歌って、正解を出してみたり、座席が最後尾なのを利用して、一人で勝手に「続きの歌詞あてゲーム」に集中していた。

「恋の季節」のイントロが流れた時は、全部、歌える自信があったから、ピンキーが歌詞を歌う直前に、あたかもバスの中の客たちに、歌詞を教えるような口調で「忘れられないの あの人が好きよ」「青いシャツ着てさ 海を見てたわ」なんて、合唱を誘導するバスガイドのマネを小声で行うなど、新しい趣味を見つけた悦びに包まれた。

そろそろ到着だな~。
そう思った矢先に聞こえて来たのは、五番街のマリーへ。
「五番街へ~ 行ったならば~ マリーの家へ行き~ どんな~暮らし しているのか 見て来て欲しい~♪」
おおおおお~~!!
「五番街のマリーへ」は絶対に最後まで聞きたい!!

そんな私の心中など察することもなく、無常にもバスは岩盤浴へと到着し、諦められない私は運転手にそっと伝えた。
「五番街のマリーへ」を最後まで聞かせて下さい。

運転手は、次の運行があるからなあ~などと、口では渋りながらも、まんざらでもない表情を浮かべ、ボリュームをさらに大きくしてくれた。
運転手が鼻歌で歌い始めたので、私も負けじと鼻歌で対抗。
2番のサビも終わりに近づくと、二人とも高橋真梨子以上に声を張り上げて、完全なる大熱唱。
最後の最後は、運転手が鼻歌を止めて、私にラストの部分を飾らせてくれた。

「マリーという娘と~ 遠い昔に暮らし~ 悲しい想いをさせた~ それだけが気がかり~♪
五番街は 近いけれど とても遠いところ~ 悪いけれど そんな想い 察してほしい~~~♪」

歌い終わった後、岩盤浴なんて入らずに、このままずっと歌謡バスに乗っていたい気持ちになった。
「お兄ちゃん、もう一往復していくかい?」
運転手は誘ってくれたけれど、私は降りねばならない。岩盤浴で痩せねばならない。
悪いけれど そんな想い 察してほしい~~~♪

運転手にシフトを聞くと、月曜と金曜の午前中のみの運転らしい。
今度は何が聞けるのだろうか?
楽しみで仕方がない。
ごば

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