会いたくなくて会いたくなくて震える

会いたくて会いたくて震える~~~~♪
西野カナが、不景気も高齢化社会も領土問題もカンケーネーとばかりに、ナメくさった歌詞で一世を風靡した頃、私の友達は雑誌の表紙を飾る彼女を見て「誰これ?AV女優?」と言った。
「違う」と返す私に対して今度は「あ!お笑い芸人だ。たしか二人組だよね」と言う。
「それ馬場園」
アジアンを知っていて西野カナを知らないとは、どんな社会で生きているのか、少しだけ気になる。
西野

カナの震える震えるブルブルSONGは大ヒットしたが、私だって他人より経験こそ少ないものの恋をしてきた。それでも、会いたくて会いたくて震えたことはない。まだまだカナより未熟者なのだろう。

でも、カナは知っているだろうか?
会いたくなくて会いたくなくて震えることだってあることを。

別にストーカーを怖がる女子でも、DV夫から逃げ続けている妻でもない。37歳の平凡な男性だが、私には会いたくなくて会いたくなくて震える人がいる。
通称:覚悟おしっ!
これは彼女の口癖と言うか、決め台詞と言うか、もしかしたら一回口走っただけかもしれないが、そのインパクトがあまりにも強烈だったため、私の仲間内では、彼女の事をそう呼んでいる。しかも、ちょっとした流行語にもなっている。

数日前の午後2時。
大通りを渡ってコンビニに行こうとした直後のことだ。なるべく会わないように細心の注意を払っていた、覚悟おしっ!と再会を果たしてしまった。その時の心境は、キャーどころかギャーーーーー!!!に近く、37歳にして、あやうく小便を漏らすところだった。

覚悟おしっ!に、「わー、すごい偶然!何やってんの?」なんて聞かれて、咄嗟に嘘を言えない私は、やっぱり未熟者だ。カナの爪の垢でも煎じて捨てたい。
「あ…、お昼ご飯を買いに…」
「えー!!私も今からランチに行こうと思ってたのー!!」
そこから連行。有無を言わさずの拉致。
覚悟おしっ!が運転する車の助手席に座らされ、小さく震えながら溜め息を吐いた。
以前、昼の12時前にやっぱり道路で遭遇して、解放されたのは夜9時だった。今日も9時間コースなら生き地獄だ。

高級そうなレストランのドアを開けると同時に、彼女は言った。本当に言った。
「久しぶりだね~。いっぱい話したい事があるの。覚悟おしっ!!
その瞬間、震えの意味合いが恐怖から笑いに変わった。
まさか彼女の発する「覚悟おしっ!」が、仲間内で大流行だとは言えず、下を向いて必死に声を押し殺しながら、笑った。

覚悟おしっ!は、スピリチュアルな話を延々とする傾向にある。
テレビは見ない、音楽は聞かない、本は読まない。興味と関心の全てはスピリチュアルにある。
余談だが、私は「オーラの色が見える」とか言う人を信用しないと決めている。得意気な顔で「あなたのオーラの色はオレンジです」などと言われると、どういう人だと思われたいの?と呆れてしまう。本当に見えていると仮定しよう。その色を伝えて何になる?言われた人は色を知ってどうすれば良い?いろんな色を見て一人で楽んでいれば良いんじゃね?
すごい~!って言われたいのかもしれないけれど、もはや病気。すごい人に思われたくて震える病。
信頼や尊敬は、そうやって得るものではないと思う。
「あなたのオーラはオレンジですが、オラのオーラは透明です」ぐらい言う人だったら信用するけどさ。

覚悟おしっ!のスピリチュアルな話は、オーラの色とか癒しのスポットなんかより、遥かに次元が違っていて、天使が見えるとか、悪霊を退散させられるとか、もはやカルトの世界に足を突っ込んでいるから、リアクションに困る。別に、否定をするつもりなど微塵もない。天使でも悪霊でも信じる人は信じれば良いと思うが、何かを目に見える形で経験していない私としては、深い興味を持つことができない。

それでも彼女は、返答に困り果てる私の反応など構うことなく、天使の話や除霊が出来るようになった経緯を、そうだねえ…30分くらいかなー、注文したハンバーグが運ばれてきたもん。息をも吐かぬ速さで一方的に捲し立て、私の苦痛っぷりは限界を超えてしまった。無意識に口角を下げ、嫌なモノを見るような表情で彼女の顔を眺めていると、覚悟おしっ!は、そんな私の変化にようやく気付き、「あっ!」と一言つぶやき、声を潜めて続けた。
「顔の表情が暗い…、きっと何か取り憑いているんだと思う」

オメエーだよ!!オレに取り憑いているのは!!
そう思うのも束の間で「私、除霊が出来るようになったから。やってあげるよ」と目を閉じるように促した。
「え~、別にいいよ」
「遠慮しないで。絶対、やるべきだから」
「いいってば」
「やらないと、後々ひどいことになるよ」
もう充分すぎるほど、ひどいことになっているけどね。

どうしよう。目を閉じている隙に皿の上のハンバーグがなくなっていたら…。
そう思いながら、いやいや目を閉じる。
「もし、完全に閉じるのが怖かったら、薄目でも良いよ」
怖くはないが、薄目にする。

午後2時半を過ぎても、レストランは大混雑で、隣の席にも向かいの席にも客がいた。
覚悟おしっ!は、そんな小さなことを気にしない。それワカチコワカチコ。私の頭や肩、首の周りなどの空気を払い、次に私の心臓あたりに広げた手を近づけ、金庫のダイヤル番号を合わせるかのように、その手をクルクルと回し始めた。

この状況で笑うなって言う方が難しいだろ!!
薄目から見える表情は、目を見開き鼻を膨らませ口は一文字の、真剣そのもの。唇を噛み、笑いを堪える。
「終わったよ」
達成感に満ち溢れた様子の彼女は、力強く二度ほど頷いたが、私はその表情から顔を背け、一目散にトイレへ駆け込み、腹を抱えて大笑いをした。
なんだよアレ~~~!神様にでもなったつもりかよぉぉぉ~~~!

除霊も無事に完了したようだし、他の話が始まる前に帰ろうかね…。
しかし今度は「さっきの霊が私の中に入って来た」と言い出す始末。もう、勘弁してよ。オメエーなんて元々、悪霊そのものだろ。
それでも慈悲深い私は、この話にも乗っからないとダメなのか…と、諦めながら真顔を取り繕い、そっと言う。
「何か出来ることない?」

覚悟おしっ!は、自分で自分自身の除霊も出来るようで、周りの客たちが奇怪なモノを見るような目を向けようとも、夢中で一心不乱に除霊を続けた。
霊を払う珍妙な彼女の姿を見て、私は心の中で吠える。

こんなに恥をかかせやがって…。
覚悟おしっ!!!

さよおなら

西野カナ 22ndシングル「さよなら」
本気で、さよならしたいんだけど~。

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