小学生の恋愛事情

昨年の今頃だったと思う。
連休を利用して帰省した私が、当時小学4年生だった甥と庭で遊んでいると3人組の女の子が、我が家の前を通って小学校の方へと歩いて行った。
甥は離れていく背中を見つめながら、私にそっと呟いた。

「真ん中の子、マキちゃんって言うんだけど、俺の好きな子」
聞けばマキちゃんは同じ小学校に通う6年生で、2年くらい前に転校して来たらしい。
「へえ~。好きな子、いるんだー」
「いるよ。もう俺、4年生だし」
「で、あいつら、どこ行くの?」
「おんちゃん、あいつらって言わないで」
「あ、ごめん、マキちゃんたち、どこ行くの?」
「校庭だよ。休みの日も、いつも校庭で遊んでる」

さほど都会とは言えないような廃れた街の小学校でさえ、安全面を考慮して関係者以外は立入禁止となっていることが多い御時世だが、私が約30年前に入学し、6年間、勉強や運動を育んだ小さな小学校は、現在でも、校庭や校舎がフェンスで囲まれているわけでもなく、構造上、誰でも自由に出入りができる。そのため、学区内に住む子供や親は、公園のような感覚で校庭を利用し、何もない周辺に住む人たちの「憩いの場」ともなっている。

「おんちゃん、俺らも小学校に行こう」
「いいよ」
自転車事故のための保険加入をしている甥のチャリに跨って、マキちゃんたちの背中と一定の距離を保ちながら移動をしていると、不意に甥が言う。
「おんちゃん、こういうの何て言うか知っている?」
「何て言うの?」
「ストーカーって言うんだよ」

見事なまでに堂々とストーカー宣言をした甥と共に小学校へ到着すると、マキちゃんたち3人は校庭の隅に固まって、何かをして遊ぶわけでもなく、他愛もない立ち話をしているように見えた。スーパーの狭い通路で、他人の妨げになっていることなど顧みず延々と立ち話をするオバさんたちと、何ら光景は変わらない。

「二人でサッカーしよう!」
校舎の入口にあるカゴからボールを取って来た甥が私に向かってボールを蹴る。
私もボールを蹴り返すが、甥の視線はマキちゃんの方を向いている。
よしっ。
私は、次に来たボールを、マキちゃんたちが立ち話をしている方向へ思いっきり蹴り上げた。
「取って来い!!」
「あ!もう~なんで、そっちに蹴るんだよ~」
口では文句を言いながら、ちょっとニヤける小学4年生。
もう一度、私に向かって蹴られたボールを、マキちゃんたちの方へと蹴り返す。
「また取って来い~!!」
これを何度か繰り返すと、甥はボールを両手に持ち、私に近寄って来た。
「あのさ、おんちゃんって、デリカシーないの?
子供の口から意表を突いた言葉が発せられたことに大笑いをすると、甥は声を荒らげた。
「本当にデリカシーなさすぎ!!」

ボールをカゴに戻して、今度は甥とブランコに乗る。
「マキちゃんは、優しいんだけど、あとの二人が怖い。マキちゃんの事、好きなんでしょ?って言ってくるんだよ」
「へえ~。その二人、ブスだろ
「ねえ。おんちゃんってさ、他の大人が言わない事ばっかり言うよね」
「そりゃ、おんちゃんは、親でもなければ先生でもないから、オマエに対して責任がないの」
「だから好き勝手に言うんだね。うーん、マキちゃんよりはブスだと思う」
「あのね、大人になっても同じだよ。好きな子がいて近寄ろうとすると、その友達のブスが全力で邪魔をする
「そうなの?」
「そうだよ。ブスは人の恋の邪魔しかしない」
「どうして?」
「親切なフリを装いながら、その子だけ幸せにならないように頑張るの」
「それじゃ誰も幸せになれないじゃん」
「そんなことないよ。ブスは誰かが自分に近寄ってくると、すぐに結ばれて幸せになる」
「でも、ブスを好きになる人なんている?」
「いるよ。おんちゃん、わりとブス好きだよ」
「あ!そう言えば言ってた。おんちゃんはブスが好きだって」
「誰が?」
「みんな」
「みんなって誰?」
お母さんと、お父さん。あと、おばあちゃんと、おじいちゃん
「本当に全員じゃん…」
「それなのに今も独身なんて、おんちゃんも苦労しているんだね…」

あさこ

この日の夜、小4の甥と私は同じ布団で寝た。
「マキちゃんは、俺のことなんて相手にしてくれないよ」
「なんで?」
「だって俺はまだ子供だけど、マキちゃんは大人だもん」
「マキちゃんだってまだ小学生じゃん。子供だよ」

私の発言に甥は溜め息を吐き、分かっていないな~みたいな表情を作ってから一息で言った。
 「大人だよ。もう初潮は終わってる」 

あまりにも衝撃的な見解に、私の心の中で黒い渦が巻く。
この子は将来、ストーカーになるかもしれない。それも、うんとデリカシーのないストーカーに。
私には責任がない、などとは言ってられないと強く痛感した夜だった。

初恋

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