押し入れのちよ

母が図書館の本をなくしたらしい。
「部屋中どこを探しても見当たらないのよ」

そんな電話をもらったところで、遠く離れた場所で暮らす私は何もしてあげられない。
透視能力がない息子で本当に申し訳ない。

しかし、母は構うことなく事情を説明し始めた。
基本的にはリビングで読んでいたそうだが、一度だけスーパーに行く時に持ち出したらしく、もしかしてスーパーにあるのではないか?と電話を掛けたらしい。

「何と言う本ですか?」
「押し入れのちよ、です」
「押し入れのキヨ?」
「いえ、押し入れのちよ、です」
「押し入れのキヨですね」
「ちょっと、アンタ。清原に謝りなさいよ。ちよって言っているでしょ」
「清原のキヨですね」
母は私に、あんな偉大な男を押し入れに入れるなんてとんだプレイだ、と付け加えた。
「そしたら、ないって言うの。そりゃそうよね、押し入れのキヨなんて本、どっこも出版していないんだから」

次に母は、念のために図書館に連絡をしたそうだ。
「もしかしたら、お節介な誰かが返却してくれているかもしれないでしょ」
こういう場合、お節介ではなく親切と表現するものだと思ったが、口を挟まずに聞いていた。
「そしたら、やっぱり貸出中だって。そうね、そうよね、アタクシが借りているんだもの、貸出中に決まっているわよね」

一方的に事情を説明すると、母は満足をしたのか、一方的に電話を切った。
その後、何日も探し続けたようだが、ある日キッパリと探す事をやめたらしい。

探すのをやめた時
見つかる事もよくある話で
踊りましょう 夢の中で
行ってみたいと思いませんか

「って、陽水も歌手とは思えないほどの鼻声で歌っていたでしょ。ウフッフ~、ウフッフ~♪って、ウフっていたでしょ」
また、突然、母から電話があり、いきなり井上陽水の曲を熱唱された。
どうやら、陽水の言うままに現実逃避をすること数日、母はカーディガンを羽織るためにクローゼットを開けたらしい。

「まさによ。まさに、押し入れのちよだったわ。クローゼットの中の、たまに羽織るカーディガンに包まってあったの」
そして母は続けた。
「こんなところから出てくるなんて、押し入れのちよ、恐るべしね!」

別に、押し入れのちよが恐ろしいわけではなく、母の物忘れに過ぎないのだと思ったが、やはりわざわざ指摘はしなかった。見つかったのであればどうでもいい。
「で、結局、どういう内容の本だったの?」
「急いで図書館に返したから、よく覚えていないんだけど」
「ホラー?」
「うん。なんか清原を押し入れの中に入れる本
「…………」
「じゃあね」
ガチャ。

あんな偉大な男を押し入れに入れるなんてとんだプレイだ。

探し物はなんですか
見つけにくいものですか

ちよ

話の着地点が見つかりませんー!!

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